いつの間にか、会社にいることが「安全」じゃなくなっていた。肩書きがあっても、チームに属していても、仕事が来る保証はない。残るのは「誰ができるか」という結果だけ。どこにも属さずに生きる人たちのほうが、案外、堅実に稼いでいる。それはなぜか。何が違うのか。
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GIGエコノミーの正体:雇用から“案件”への移行
GIG(ギグ)は元々、ジャズミュージシャンのライブ出演依頼=“短期仕事”を指すスラング。
今では一社に属さず、仕事ごとに契約する働き方全般を意味する。
経済学者アービング・フィッシャーは「GIGは雇用の概念を破壊する」と予見した。米国労働統計局によれば、フリーランスや独立業務請負人は2030年までに全体の50%近くに達する見込み。
GIGエコノミーが広がる要因:
- リモートワークの定着
- 業務の細分化と自動化
- プラットフォームの台頭(Upwork、Freelancer、Lancers など)
- 正社員より業務成果を重視する評価制度
雇われていること自体には、もう価値がない。成果を出せることだけが価値になる。
組織は消えても、案件は残る
企業が組織を縮小し、必要なときに必要な人材を調達する動きは急加速している。Googleの元CEOエリック・シュミットは「未来の組織はプロジェクト単位の集合体になる」と語る。
SlackやNotionでつながるだけの、物理的に存在しないチーム。日単位・週単位で入れ替わるメンバー。案件単位で稼働するエンジニア、デザイナー、アナリスト。
企業の中に属していても、個人がプロジェクト単位で切り出され、案件で評価される流れは止まらない。
現場ではすでに、以下のような構造が生まれている:
- 担当者の名前より、成果物の品質が重要視される
- 履歴書より、ポートフォリオが重視される
- 雇用期間より、実績のインパクトが問われる
個人開発と個人コンサルは主流になるのか
個人開発者やコンサルが案件を請け負う構図はGIGエコノミーと親和性が高い。
ただしプログラミングができるだけ、戦略が語れるだけでは価値が半減する。
複雑化するクライアントのニーズに応えるには、以下のようなスキルの掛け合わせが必要になる:
- 業務設計 × システム設計 × 実装
- 要件整理 × ノーコード × API連携
- ビジネス知識 × テクノロジー理解
Deloitteが推進するFusion Team(融合チーム)の考え方では、コンサルタント・開発者・業務担当を一人が兼ねる形を提唱している。
一人で要件を読み、形にできる人材が圧倒的に重宝される構造になりつつある。
稼ぐ武器は「読解力」と「自走力」
案件単位での働き方が前提になると、以下の能力がカギになる:
- 「何を求められているか」を正確に読み取る力
- 与えられる前に動く思考と行動の癖
- 仮説を立て、検証し、形に落とすプロセス設計力
このスキルセットはコードよりも構造を理解する力に近い。API連携や業務オートメーションに強い人材は、ノーコードツールでも爆発的に成果を出す。
Accentureがグローバルで推進する「市民開発者戦略」では、現場で手を動かせる非エンジニア層を“変革の起点”と位置づけている。
人と業務と技術の構造が読める人材が、真に価値を持つ。
キャリアは「肩書き」ではなく「タスク資産」で考える
案件経済では、キャリアの通貨が変わる。
必要なのは“何年いたか”ではなく、“何をしたか”の中身。
- 職務経歴書に書くのは役職ではなく成果物
- 案件ベースでポートフォリオを持つことが標準化
- スキルの棚卸しがキャリアの中心になる
「あなたは何者か」ではなく、「どんな出力ができるか」が問われる。
たとえば、タスク管理アプリを作ったことがあれば、その背景にある要件整理力や業務理解を言語化できることが武器になる。
出力=再現性のあるスキル証明である。
まとめ
組織がなくなっても、案件は残る。
大きな会社に所属することより、小さなプロジェクトで成果を出せる力の方が確実に意味を持つ時代が来ている。
この構造に順応するには、自分のスキルと成果を細かく言語化し、必要な形で提示できるようにしておく必要がある。
キャリアとは、与えられるものではなく設計するもの。
案件ベースで生きるとは、自分の出力を戦略的に構築することに他ならない。
その準備が整えば、環境がどう変わっても、自分の価値が揺らぐことはない。