IT用語

ITSMとは何か?意味と仕組みをわかりやすく解説

パソコンが壊れたとき、誰に連絡するか迷ったことはないか。ITのトラブルが起きるたびに現場が混乱し、同じ問い合わせが何度も繰り返される。そんな職場に必要なのがITSMという仕組み。これは、ITが裏方としてきちんと機能し、ビジネス全体がスムーズに回るようにするための考え方だ。

ITサービスマネジメント(ITSM)の意味と目的

ITSM(IT Service Management)とは、IT部門が提供するサービスを仕組み化し、ビジネス全体を支える運用体制をつくる考え方である。

昔はパソコンが壊れたら、詳しい人に声をかけるだけで何とかなった。今は、従業員数百人規模の会社で同じことをすると、情報がバラバラになり、対処が遅れる。

ITSMは、ITの役割を「頼れる仕組み」に変える。サポート、障害対応、アクセス権管理など、バラバラに見える作業を、一つのサービス運用プロセスとして管理する

この運用の基準としてよく使われるのが「ITIL(アイティル)」というフレームワークである。ITILは、世界中の企業が実践してきたベストプラクティスをまとめたガイドラインで、ITSMの基盤として広く採用されている。

ITSMで扱う「ITサービス」の具体例

ITサービスといってもイメージがしにくい。ここでいう「サービス」とは、IT部門がビジネス部門に提供しているあらゆる支援行為を指す。

たとえば以下のようなものが該当する。

  • 社員のアカウント発行
  • 新しいノートPCのセットアップ
  • 社内システムへのアクセス権付与
  • クラウドストレージの容量変更
  • 不具合や障害の一次対応

つまり、社内でITに依存する行動すべてがサービス対象になる。これらをバラバラに対応すると、担当者の負荷も増え、品質も下がる。

ITSMはこれらの作業を一元管理し、申請→対応→完了までの流れを標準化する。

なぜITSMが必要とされるのか

会社が小さいうちは、誰かが助けてくれればそれで良かった。だが組織が大きくなると、同じような依頼が重なり、処理漏れや対応の遅れが目立ち始める。

たとえば、10人の社員にPCを配布するだけでも、セットアップ、アカウント登録、ソフトインストールなど、複数の工程が発生する。ひとつでもミスがあれば、業務に支障が出る。

ITSMは、このような作業を「繰り返し可能な手順」に変える。どんな依頼にも一定の品質とスピードで対応するための、会社全体の「裏方の設計図」と言える。

GoogleやServiceNowのITSM活用事例

GoogleはSite Reliability Engineering(SRE)という考え方でIT運用を体系化している。これはITSMの進化系とも言える考え方で、障害対応や可用性を高いレベルで維持する仕組みがある。

一方、ServiceNowはITSMの代表的なプラットフォームを提供する企業であり、ワークフローの自動化やインシデント管理を容易にするツール群が揃っている。

ServiceNowを導入することで、以下のような効果が得られる。

  • チケット管理による対応漏れの削減
  • 進捗状況の可視化
  • 承認フローの自動化
  • 対応履歴の蓄積とナレッジ活用

つまり、Googleは仕組みとしての思想を、ServiceNowは実行するための「道具」を提供している。

ITSMを導入するタイミング

社内のIT対応が「人頼み」になっているうちは、ITSMの必要性を感じにくい。だが、以下のような兆候が見られたら、導入のタイミングである。

  • サポート対応にムラがある
  • 問い合わせが属人的に処理されている
  • 対応履歴が記録されていない
  • 同じ質問が何度も寄せられる

これらはすべて、仕組みが未整備なことによる「無駄な繰り返し」を示している。

ITSMの導入によって、こうした問題を最小限に抑え、組織としての対応力を底上げできる。

ITSMはIT部門だけの話ではない

ITSMの導入はIT部門だけの問題ではない。人事、経理、総務といった他部門の仕事にも大きな影響を与える。

たとえば人事部門が新入社員を受け入れるとき、PCの手配、アカウント作成、メール設定など、IT部門との連携が不可欠になる。

ITSMはこのような部門をまたぐ業務プロセスを連携させる仕組みでもある。

また、ユーザー体験(UX)や従業員体験(EX)にも直結する。問い合わせが迅速に処理されれば、働く人のストレスは減り、生産性も向上する。

ITSMを支える「仕組み」と「文化」

ITSMは単なるツールではない。大事なのは、それを使いこなす組織の文化である。

  • マニュアルの整備
  • チケットの運用ルール
  • ナレッジの蓄積と共有
  • KPIによる可視化と改善

AtlassianのDevOps調査レポートによれば、運用改善に取り組むチームの方が、障害対応時間が半分以下であるという。

つまり、ITSMを「導入して終わり」にせず、日々改善していく文化を育てることが成功のカギとなる。

まとめ

ITSMとは、IT部門の働き方を整理し、ビジネス全体を支える裏方の設計図である。

属人的な対応をやめ、仕組みで回すことで、組織は成長に対応できる体制を手に入れる。Googleのような巨大組織だけでなく、中小企業にも同じ考え方が必要になる。

ITSMは、ITに限らず、会社全体の働き方をスムーズにする基盤となる存在だ。見えないところにこそ、組織の強さが宿る。