世界の優秀なリモートワーカーを日本に呼び込むために、「デジタルノマドビザ」が2024年に施行された。
表向きはインバウンド政策の一環。だが、よく見るとこの制度は日本の資本・人材構造の根深い問題を映す鏡のようにも見える。なぜ今このタイミングなのか。なぜ自国民ではなく「海外人材」なのか。
この問いに正面から向き合う必要がある。
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デジタルノマドビザとは何か
デジタルノマドビザは、高所得の外国人リモートワーカーに日本国内での一定期間の滞在と就労を許可する制度。
日本政府の狙いは明確。「人」「金」を呼び込み、地域経済を潤すこと。
対象は、年収1,000万円超のフリーランスやIT系のリモートワーカー。観光以上、移住未満という新たな立ち位置をつくることで、消費だけでなく“納税”も期待できる仕組みとされている。
経済産業省は「新たな形の経済貢献」と表現したが、裏を返せば「外貨依存の強化」である。
なぜ日本は“外”ばかり見て“内”を育てないのか
本来、労働力不足やIT人材の欠乏という課題に対して、最も根本的な処方箋は国内人材への再教育とリスキリングであるはず。
だが実際は、政府主導でのスキルアップ政策は一部の補助金やキャンペーンにとどまり、抜本的な再教育制度は存在していない。
・公立教育ではITリテラシーが体系的に教えられない
・職業訓練校の制度は時代遅れ
・大学改革も現場任せで実効性に欠ける
この「内への無関心」は、日本の構造的な弱さを露呈している。外国人のほうが即戦力として期待され、自国民は“育てるには時間がかかる”と見なされている現実がある。
中東の若者はなぜ米系ギグワークで稼げるのか
サウジアラビアやUAEでは、英語力とネットワークを武器に、個人で米系の案件を受注するギグワーカーが増えている。
UpworkやToptalのようなプラットフォームでは、アメリカの大企業の外注仕事を1件数十万円規模でこなす中東の若者が珍しくない。
ポイントは以下の3つ。
- 英語による高度な情報アクセス
- 自国政府によるスタートアップ支援(例:ドバイの起業インセンティブ)
- 教育とスキル開発の民間主導モデル
こうした個人レベルの越境的な働き方に日本の若者は無関心なことが多い。
英語が苦手
仕事は企業が与えるもの
副業はリスクが高い
こうした意識のままでは、日本という国そのものがギグ経済から置き去りにされる可能性がある。
平和ボケ国家で進まない“意識のインフラ整備”
高度経済成長期以降、日本の労働モデルは“終身雇用”を前提に設計されてきた。
仕事は会社が与えるもの
学びは学生時代で終わる
安定とは大企業に勤めること
こうした信仰が根強く残るなか、個人が主体的に働き方を変えるインセンティブがない。これは教育制度だけでなく、社会文化・企業慣行にも深く根差す問題。
言い換えれば、日本は「働き方の制度」ではなく、「働き方の意識」が遅れている。
働くとは何か
稼ぐとは何か
キャリアを築くとはどういうことか
こうした問いを学校でも家庭でも共有することがない。意識のインフラが整備されていないのだ。
国が率先して“働き方のOS”をアップデートせよ
世界では国家レベルでの意識改革が行われている。
- エストニア:デジタル市民権制度
- イスラエル:軍経由での技術教育と起業支援
- UAE:子ども向けAI教育と起業環境の整備
これらに共通するのは、「個人」が経済の主役になる未来を見据えている点。
対して日本は、依然として“企業経由で人を育てる”モデルを維持しようとしている。しかし、終身雇用も年功序列もすでに崩れている。
今必要なのは、国民一人ひとりが働き方を設計できる時代に向けて、教育・制度・文化を再構築することだ。
政府が主導して取り組むべきことは以下のとおり。
- 小中高での“稼ぐ”教育(金融・副業・マーケティング)
- リスキリング支援の恒常的な予算化
- 英語×プログラミングのセット教育
- グローバル案件への接続インフラの整備
まとめ
デジタルノマドビザは、日本が海外に依存しなければならない現実の象徴とも言える。
だが本当に必要なのは、自国の人材がリモートでもグローバルに戦えるように「内なる力」を育てること。
個人が主役になる時代。
ビザで人を呼ぶより先に、自国民の“働く力”を引き出す仕組みが必要だ。
そうしなければ、いつまでも“他国頼りの経済”から脱却できない。
それは国家の持続性にかかわる根本的な問題である。