組織全体がどう動いているのか、自分の仕事が会社全体のどこに位置しているのかがわからないと、不安や不満が生まれる。ビジネスアーキテクチャは、その“モヤモヤ”を言葉と図にしてくれる設計図のようなもの。
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ビジネスアーキテクチャの基本:設計図としての役割
ビジネスアーキテクチャは、企業の構成要素(プロセス・人・データ・アプリ・戦略など)を整理し、それぞれの関係性を明確にする枠組み。見えない組織の全体像を「見える化」するための設計図とも言える。
企業はひとつの機械のように、無数の部品で動いている。製品を作るだけでなく、注文受付、顧客対応、物流、財務、人事、情報システムなど、多数の要素が連携して価値を生み出す。
ビジネスアーキテクチャでは、それらの要素を「どうつながっているか」で捉え直す。目的は、価値を届ける構造を理解し、無駄や断絶を減らし、より良い仕組みに変えること。
二つの視点で見るビジネス:オペレーティングモデルとケイパビリティモデル
企業の活動は、大きく二つの視点から整理できる。
オペレーティングモデル(現場視点)
顧客が注文した瞬間、組織内で何が起こるかを見る視点。
- どの部門が動くか
- どのシステムが動作するか
- どんなデータが処理されるか
- 誰が対応するか
これらを横断的に整理し、業務プロセスの流れを視覚化する。
たとえば「工場でベアリングを受注生産する企業」なら、営業から工場、物流、カスタマーサポートまでの一連の動きがつながって見える図になる。
ケイパビリティモデル(経営視点)
経営者が見るのは、どんな能力(ケイパビリティ)を自社が持っているか。
- 「迅速な出荷」
- 「カスタマー対応力」
- 「製品開発力」
これらを構成するのが、プロセス・人材・データ・アプリケーションなど。ケイパビリティは“機能の箱”であり、中に必要なリソースを詰めて成り立つ。
例えば「出荷力」というケイパビリティには、物流担当、出荷管理アプリ、倉庫、配送業者との連携といった構成要素が含まれる。
例えるなら:企業を「大きな厨房」に置き換える
ビジネスアーキテクチャは、料理をする厨房の設計図に似ている。
- オペレーティングモデル=実際の調理の流れ(注文→調理→提供)
- ケイパビリティモデル=厨房が持つ調理能力(焼く、蒸す、揚げるなど)
火が出るか、シンクが詰まっていないか、連携が取れているか。全体を見える化すれば、うまくいっていない部分が見つかる。
可視化が生むのは「意思決定の質」
ビジネスアーキテクチャの最大の価値は、経営判断に必要な“共通の地図”を作ること。
- 組織がどんな能力を持ち
- どこが弱くて
- 何を優先して強化すべきか
これを曖昧な感覚ではなく、構造的に捉える。
Googleの元CEOエリック・シュミットは、戦略実行のために「構造的な可視化がない会社は、迷子になる」と語っている。戦略もITも、人も予算も、地図がなければ連携できない。
実践する企業:マイクロソフトとエアバスの例
Microsoftは、エンタープライズアーキテクチャの一環として、ビジネスアーキテクチャの標準フレームワークを社内に導入している。各部門のケイパビリティを明確に整理し、クラウド移行やDXに活用。
航空機メーカーのAirbusは、オペレーティングモデルを活用して製造プロセスを可視化。どの工程にボトルネックがあるかを明確化し、組み立てスピードを改善。
両者の共通点は「戦略・プロセス・テクノロジー」を一つの構造でつないでいること。
スモールスタートのすすめ:最初から全社を設計しない
いきなり全社の構造をモデル化しようとすると、失敗する可能性が高い。成功企業の多くは、以下のように段階的に始めている。
- 顧客対応業務などの一部分を対象にする
- 既存業務の課題解決に直結する領域を選ぶ
- 小さく始め、徐々に拡張する
たとえば「注文→出荷」までの流れに絞ってオペレーティングモデルを作る。成果が見えれば他部門にも展開しやすい。
まとめ
ビジネスアーキテクチャは、企業という複雑な仕組みを“構造”として捉える設計図。オペレーティングモデルとケイパビリティモデルという二つの視点があり、それぞれ「動き」と「能力」を明らかにする。
この設計図があれば、戦略が現場にどう落ちているかが見える。部門同士の断絶や、システム間の無駄な重複も発見しやすくなる。
変化の激しい時代にこそ、構造を理解し、柔軟に変えていく力が求められる。その第一歩が、ビジネスアーキテクチャの導入である。企業が自分の“地図”を持つことで、より合理的な判断と素早い行動が可能になる。