将来の働き方において、ノーコード/ローコード技術がどのような位置づけになるのか。その可能性と課題を、調査データや具体例を交えて解説する。特別な知識がなくても理解できるように、市民開発者の役割や仕組みについてもたとえ話を交えながら紹介する。
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仕事の“当たり前”が変わる。ノーコードは次のExcelになる
パソコン仕事で「Excelが使えるかどうか」が重視された時期がある。今ではほとんどのオフィス業務にとって当たり前のツールだ。
ノーコードもそのポジションに近づいている。
Google Cloud元CTOのBrian Stevensは「ノーコードは10億人の新たな開発者を生む」と語っている。つまり、プログラミングを学ばなくても、誰もが自分の手で仕事を便利にできる時代が来るということだ。
Statistaの調査(2023)によると、ノーコード/ローコード(以下NCLC)市場はすでに約200億ドル規模に達しており、2030年には1870億ドルに成長すると予測されている。
MicrosoftやGoogleなどもこの分野に力を入れており、Power Platform や AppSheet のようなツールがすでに社内業務で広く使われている。
ノーコードは“学歴・経験なし”でも武器になる技術
ノーコードは「市民開発者(Citizen Developer)」という新しいタイプの人材を生んだ。これは、IT部門にいなくても、業務をよく知る現場の人がアプリやツールを自分で作ってしまう人たちのこと。
たとえば、工場で働くベテラン社員が、紙で行っていた点検記録をスマホで入力できる仕組みに変える。プログラムは書けなくても、現場を一番よく知っている人が“本当に使える仕組み”を作れる。まるで「家庭料理を知っている人が、自分の台所に合う便利グッズを自作する」ようなイメージだ。
McKinseyはこうした動きを「シャドーITの進化」と表現した(Begonha et al., 2022)。
シャドーITとは、企業のIT部門を通さずに現場が勝手に使っているツールやアプリのこと。これまでは“非公式”として問題視されがちだったが、ノーコードを使えば、こうした現場主導の工夫がむしろ評価され、正式に活用されるようになる。
ノーコードができる人が“働ける人”になる3つの理由
- 企業のIT人材が足りない:Gartnerによると、2025年までに企業のIT需要の70%が対応されないとされている。つまり、開発できる人が圧倒的に足りない。
- ノーコードの市場が拡大中:StatistaやForresterは、NCLC市場が2030年までに5倍以上の規模に成長すると予測している。企業が注目するのは「簡単に動くツールを早く作れるか」だ。
- 現場の改善が評価される時代に:MIT Sloanの研究では、DX(デジタルトランスフォーメーション)で成功している会社の多くは、現場のアイデアをうまく取り入れていることが共通点だった。ノーコードはその現場力を支える手段として選ばれている。
ノーコードとコーディングの共存は可能か
ノーコードは便利だが、万能ではない。たとえば、膨大なデータを処理するシステム、大企業全体の基幹システムなどは、依然としてプログラミングが必要。
ただし、両者は競合ではなく、役割が違う。
- コーディングの強み:自由度が高く、細かい制御ができる
- ノーコードの強み:スピードが速く、すぐに使える仕組みを作れる
実際、社内でのアイデア出しや簡単な業務改善にはノーコードが適している。そこから必要に応じてエンジニアが本格的に開発する。つまり、“深く作る”のがコーディング、“早く試す”のがノーコードという使い分けが現実的だ。
ノーコードが広がる“静かなバブル”はすでに始まっている
ノーコードは企業だけでなく、学校、病院、役所などにも広がっている。GoogleやMicrosoftも教育用にツールを展開している。
Excelが「とりあえずこれで何かできる」と言われた時代と同じように、ノーコードも「これなら誰でも始められる」と言われ始めている。
まだ周囲に使っている人が少ないと感じるかもしれないが、裏側では急速に広がっている。
まとめ
ノーコードは特別な人の技術ではなく、誰でも始められる新しい働き方の入口になっている。
コーディングが必要な仕事も変わらず存在するが、すべての人がコードを書ける必要はない。
現場を知っている人が、自分の仕事に合ったツールを作れる時代が始まっている。その技術がノーコードであり、2030年には“働ける人の基礎スキル”になる可能性が高い。
キャリアに迷ったとき、まずは仕事をラクにする方法を見つけてみる。その先にノーコードがあるかもしれない。