「何も教わっていないのに、なぜできないのかと言われる」。
そんな理不尽を飲み込んで働き続ける人があまりに多い。
育成されない職場、期待されないキャリア、置いていかれる焦燥感。
進化するには、自分で自分を“育てる”しかない。
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「育成」は幻想だった──構造的に育てられない組織
OJT(On-the-Job Training)は、育成ではなく放置の言い訳になっている。
リクルートワークス研究所の調査(2022年)によれば、「新人育成が仕組み化されている」と回答した企業は全体のわずか14.8%。
企業側の言い分は「教える時間がない」「余裕がない」。
だが実際には、「教える能力のある人材がそもそもいない」「評価制度が育成を評価しない」など、構造の問題が背景にある。
組織が“育成”から手を引いている時代に、「教えてもらえる前提」でキャリアを歩むのは、あまりに危うい。
DX人材という虚像──育成の構造が崩壊したまま先端領域へ
経済産業省の「DXレポート2」によれば、2030年にはIT人材が79万人不足するという。
この不足を補うため、国は「リスキリング」「越境学習」などのキーワードを掲げるが、現場ではリスキリング以前に“スクラッチから育てる文化”がないという矛盾を抱える。
多くのDXプロジェクトでは、即戦力が優遇される。
育てるより「できる人に任せる」が正義になっている。
つまり、先端領域ほど少数精鋭の“育てない設計”で動いている。
この状態で「未経験からDX人材へ」は、極めて困難な道筋である。
「進化」は自分で始めるしかない──セルフ代謝のすすめ
人材の“代謝”を待つのではなく、自ら“細胞分裂”を起こす。
これが、育成されない時代を生きるための戦略となる。
ここで言う「セルフ代謝」とは、
- 外から与えられる成長ではなく、自ら再設計していく力
- 評価や承認を待つのではなく、自らにフィードバックをかける思考
- 教材や経験を“自分用”に咀嚼して血肉に変える技術
を意味する。
メンタルモデルでいえば「依存→主体」への転換。
キャリアモデルでいえば「雇用→価値供給」への転換である。
たとえ話:泳ぎ方を教わらず、いきなり海に投げ込まれる世界
育成のない職場は、泳ぎ方を教えずに海に放り込むようなもの。
プールではない。海には流れがある。波もある。クラゲもいる。
だが、そこで浮き輪を作るか、自力で泳ぎ方を発明するかは、自分次第になる。
泳げなければ沈む。それが現実。
だからこそ、まずは「水を飲まない工夫」を覚える必要がある。
それが「セルフ代謝」であり、「自立して進化する」という技術である。
「教えてくれない」はもはや当たり前──マインドの書き換え
「教わっていない」は免罪符にならない。
なぜなら、環境の側がすでに「教えない」ことを前提条件として設計されているため。
この現実に適応するためには、以下のような思考の書き換えが必要になる。
- Q:誰も教えてくれない → A:誰も教えてくれないのが普通
- Q:できないことを怒られる → A:できないことを理由に排除される
- Q:努力は報われる → A:努力を価値に変換できた人が報われる
つまり、「育成されること」への期待をゼロに戻すことで、自走が始まる。
進化を加速させる手段──学習設計と環境操作
セルフ代謝を促すには、自己学習を習慣化する環境と、学びを結果に変える設計が必要。
たとえば、
- 学習設計:目標→習慣→成果のサイクルを可視化
- 環境操作:刺激がある場所に身を置く、SNSで発信して反応を得る
- フィードバック機構:自分の行動に意味づけを与える仕組みを作る
MITの研究によると、自律的に学習設計できる人は、そうでない人に比べてキャリア昇進速度が約2.3倍高いとされている(MIT Sloan, 2021)。
「教えてくれる人」はいないが、「ヒントをくれるデータ」は探せばいくらでもある。
まとめ
育ててもらえる時代は終わっている。
この現実は冷たいが、嘆くことに意味はない。
なぜなら、育成の設計そのものが抜け落ちた時代において、“育てられる前提”でキャリア設計することこそが最大のリスクになるから。
ではどうするか。
自らを代謝させる仕組みを持つ。
変わり続ける習慣を“標準装備”にする。
それこそが、育成のない時代で“進化し続けられる人材”になるための条件になる。
育ててもらうのではなく、育っていく構造を自分の中に持つこと。
それが、あらゆる変化に飲み込まれない働き方の出発点になる。