ITキャリア

努力では覆らない“学歴フィルター”──統計が語る終身下流ルート

どれだけ努力しても面接に呼ばれない。求人票にスキル要件は書かれていても、実際に通過するのは上位大学ばかり。面接すら「実力の舞台」ではない。そう気づいた時、構造そのものが壁であることが見えてくる。これはスキル以前に、ルートの問題だ。

海外IT企業と学歴フィルターの自動化

アメリカのテック企業では、学歴と専攻がコード化されている。LinkedInの採用統計では、上位大学×CS専攻が応募全体の35%を占有し、実際の内定率でも圧倒的な優位にある。FAANGクラスの企業では、非CS・中堅以下の学歴の場合、通過率は3%以下。履歴書に書かれた文字情報が自動スクリーニングで弾かれる。

Elon MuskはX社の組織再編で「少数精鋭に絞り込む」と述べた。要するに、教育コストのかからない高学歴者を選ぶ構造が合理的だと明言したことになる。意思決定にスピードと確実性を求めるなら、入力項目の削減が最も効率的という判断。

この流れは日本にも届いている。

日本のIT採用と見えない“選別”

日本企業では、学歴フィルターは形式上存在しない。求人票に「大学不問」と書かれていることが多い。ただし統計が示す実態は異なる。

東洋経済の調査によれば、総合商社・大手ITベンダー・コンサル企業の新卒採用における上位5大学の占有率は50%以上。たとえ明文化されていなくても、選考の中に自然とフィルターが存在している。選考官の無意識、アルゴリズムのトレーニングデータ、履歴書フォーマット。そのすべてに学歴という変数が組み込まれている。

エントリーの段階では「平等」でも、通過率は均等ではない。

昇進と裁量のスピード格差

採用後も差は続く。上位大学出身者はコア部門に配置され、早期から裁量を持つ。30代前半で年収850万円を超える割合は、偏差値上位×理系卒で約35%。中堅私大・文系卒では5%未満。業務内容や職種が異なることで、昇進ルートそのものが変わる。

主任職までの昇進年数では、旧帝大出身者が5〜7年、非上位層では12〜15年。役職到達の差は、年収差以上に将来の“選択肢の数”に直結する。

昇進までの平均年数

┌─────────────┬──────────────┐
│ 上位大・理系 約6年 │ 中堅大・文系 約14年 │
└─────────────┴──────────────┘

たとえ話を置く。百人のランナーが同時にスタートし、最初に右の道を選んだ者は坂を下り、左を選んだ者は坂を登る。坂道の角度は履歴書の一行で決まる。どちらも走っているが、ゴールに着く時間はまるで違う。

フィルターが“薄い”企業にも存在する格差

近年では、楽天やソフトバンク、日立、NECなどが学歴に依存しない採用方針を公表している。だが、この“フィルターの緩和”は全体の構造を覆すものではない

これらの企業でも、高収入ポジションやプロジェクトリーダーの枠は限られている。実際には新卒採用後、専門職や営業職などにコース分けされ、出世ルートが固定される。上位学歴者は管理職候補として研修が用意され、非対象者にはそれがない。制度が用意されていても、実際に通れる道は別のもの。

職種別年収ランキングでは、同じ会社でも職種によって年収が400万円以上開く。構造の問題は、「入社の平等」ではなく、「成長の非対称性」にある。

選べる道が決まっている世界

副業が許可されるポジション、社内公募に応募できる条件、海外出張の対象。これらもまた、評価に基づいて制限されている。評価基準の根本には、過去の配置・実績・そして履歴書に書かれた一行が関係している。

同じ企業で、同じ部署で働いていても、許された動線は人によって違う。たとえば副業可能なのは一定以上のグレードに達した者だけ。昇進が遅れれば、副業も資格取得も制度対象外になる。

差は最初の5年で確定するが、制度上は誰にも見えない。

“下流ルート”が一生を縛る構造

給与の昇給幅、社内評価の周期、ジョブローテーションのルート。それらすべてが、最初の学歴・専攻・初期配属によって定まる。

中途採用市場に出ても、学歴と職歴の組み合わせで求人の選択肢は大きく制限される。職種未経験での転職には年齢制限が課され、30代以降はほとんどのポジションが対象外になる。構造は一度選ぶと抜け出せない。キャリアが“下流ルート”に乗ってしまうと、再浮上のためには外の仕組みにアクセスするしかない。

まとめ

努力では覆らない構造が存在する。履歴書の学歴と専攻が、入社後の配属や昇進ルート、年収レンジ、制度対象、評価可能性にまで影響を及ぼしている。しかもその構造は見えにくい。形式的には平等でも、統計は明らかな差を示している。

逆転の方法は、構造内には存在しない。選ばれたレーンの外で価値をつくる仕組みに触れること。たとえばAIやノーコードの文脈で、新しいポジションが生まれつつある。そういう話も、あるにはある。