マニュアルを作っても読まれない。更新しても誰も気づかない。気づけば、業務の属人化が進み、いつも同じ質問が飛んでくる。
それは単なる効率の問題ではない。読まれないこと自体が、コストになっている。
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なぜ“読まれないマニュアル”は罪なのか?
マニュアルの最大の目的は、業務の共通理解をつくることにある。
しかし多くの場合、作られたマニュアルはデスクの奥に眠り、検索されることも参照されることもない。
その結果、現場ではこうしたロスが生まれる。
- 毎回似た問い合わせが繰り返される
- 業務が属人化し、新人が育たない
- 判断基準が人によってバラバラになる
読まれないマニュアルは“業務知識を閉じ込める箱”になる。
ナレッジは流通しなければ意味がない。
Basecampの共同創業者、ジェイソン・フリードはこう述べている。
“The biggest waste in documentation is assuming it will be used because it exists.”
存在しているだけでは無意味。使われていなければ、それは“存在しない”と同じ。
マニュアルを作る側が目的を取り違えると、アウトプットはただの提出物になる。
参照されないマニュアルは、読者ゼロの本を毎日印刷しているのと同じである。
完璧なSOPほど使われない理由
標準作業手順書(SOP)は「網羅性が命」だと誤解されやすい。
その結果、次のような構造的な問題が生まれる。
- 情報が多すぎて必要な箇所が見つけにくい
- 更新が面倒で古い手順がそのまま残る
- 文字だけで手順を説明し、実際の操作イメージが伝わらない
業務マニュアルにありがちな「キャプチャに矢印と説明文を足しただけ」の形式では、
流れが見えず、プロセスの全体像がわからないまま読む羽目になる。
読者は「知りたい一部」だけを探している。
それにもかかわらず、すべてを順番に読ませる設計が圧倒的に多い。
SOPを料理本にたとえると、読者が知りたいのは「火加減」なのに、「米の歴史」から始めてしまっているようなもの。
マニュアルではなく“仕組み”を設計する
Google WorkspaceやMicrosoft 365が普及した現在、文書よりも「仕組み」で業務を設計するほうが効果的な場面が増えている。
- 承認フローはPower Automateで自動化する
- 業務FAQはSlackbotで瞬時に案内する
- 調査マニュアルはNotionのテンプレートで複製可能にする
「読む前提」ではなく「使う前提」の情報設計が求められている。
ナレッジが“文章”から“操作の中”に溶け込むことで、SOP自体が不要になるケースも多い。
それは、地図を手に取るより、ナビアプリを起動する行動に似ている。
地図が読まれなくなったのではない。より“行動に直結する仕組み”に置き換わっただけである。
読まれるマニュアルの条件とは
読まれるマニュアルには共通する構造がある。
- 1文が短い
- 手順ごとに区切られている
- ジャンプリンクや目次がある
- 要点だけに絞られている
- 操作と判断を明確に分けている
「何を」「いつ」「誰が」やるかが一目でわかる構成が必要である。
さらに、マニュアルの使用状況を可視化する工夫も欠かせない。
閲覧回数、検索キーワード、滞在時間などを計測することで、「読まれていないマニュアル」が明確になる。
こうした計測は、Google AnalyticsやNotion Analyticsなどのツールで簡単に実現できる。
情報は存在しているだけでは無価値
ハーバード・ビジネス・レビューでは次のように記述されている。
“Knowledge that isn’t accessed is as costly as knowledge that doesn’t exist.”
使われないナレッジは、存在しないのと同じだけでなく、存在するぶんだけコストになる。
保守、更新、サーバー管理、編集工数。それらすべてが組織の見えない負担になる。
読み手にとって使いにくいマニュアルは、社内Q&Aの回数を増やし、
問い合わせ対応にかかる時間とコストを延ばす。
検索性が悪い文書は、「読まれないこと」によって組織のリソースを確実に浪費させている。
まとめ
マニュアルを作ること自体に意味はない。
意味があるのは、そのマニュアルが使われることである。
読まれないマニュアルは、時間と労力だけでなく、組織の学習そのものを止めてしまう。
ナレッジは流通してこそ、初めて価値を持つ。
マニュアルを“作る”のではなく、“使われる状態を設計する”ことが必要である。
その設計ができれば、業務は加速し、問い合わせは減り、組織は自律的に改善を始める。
仕組みにナレッジを埋め込む発想は、あなたの働き方とチームの未来を確実に変えていく。