大量の資料を作っても、現場は動かない。会議でいくら理想を語っても、システムは変わらない。企画をしても、誰かが動いてくれなければ意味がない。そんなもどかしさを感じる人は少なくない。コンサルティングの限界は「考える」だけで止まってしまうところにある。いま求められているのは、考えて動ける人である。
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コンサルタントとは何をしているのか
ビジネスコンサルタントは、「企画する人」だと見なされがちである。だが実際の役割は、課題を発見し、解決策を“実行可能な設計”に落とし込むことにある。
マッキンゼーの元パートナーであるEthan Rasielは『The McKinsey Way』の中で、コンサルタントの仕事を「正しい問題を見極め、それを分解し、最も効率のよい解決策にたどりつく構造を描く」と述べている。
問題なのは、「構造を描く」ことに満足してしまう点である。構造を描いただけでは、何も変わらない。
技術が伴わないと実行に移らない
企画を実装に移すには、「手を動かす人」が必要になる。これが他人任せになると、企画と実行のあいだに大きな距離が生まれる。
野村総合研究所が2023年に発表した「国内企業におけるDX人材の実態調査」では、「企画できるが、実装できる人材がいない」ことが最大のボトルネックだとされた。ビジネス側の要件が現場に届かず、施策が空中分解する事例が多発している。
「動けないコンサル」は、このギャップを埋められない。
技術もできるコンサルの価値
クラウドやローコードツールの普及により、「企画した本人が、すぐに作って試す」ことが可能になった。Power PlatformやOutSystems、Bubbleなどは、非エンジニアでも業務アプリを構築できる手段を提供する。
考えて、手を動かして、仮説を検証する。この流れをひとりで回せる人材が、実行力あるコンサルタントである。
Google CloudのシニアディレクターWill Grannisは、Bloombergのインタビューで「コンサルタントはAPIを設計し、PoCを作り、アジャイルに回せる時代になった」と語った。もはやパワポだけでは価値にならない。
たとえ話:設計図だけで家は建たない
建築家がいくら優れた設計図を描いても、それを誰も読めなければ家は建たない。大工に説明できなければ、屋根は落ち、ドアは開かない。
コンサルタントは設計図を書くが、それを「読める形」にする責任がある。読めるとは、試せることである。ワイヤーフレームを描き、プロトタイプを作り、テストして見せることが「読める」状態である。
設計図だけを残して消えるコンサルタントは、建築士ではなく評論家である。
開発も実装もできる人は何と呼ばれるか
このように、課題を定義し、構想し、自ら動かせる人は「フルスタックコンサルタント」と呼ばれる。戦略、設計、開発、運用まで一人で関与できることが特徴である。
別の呼び方として、「ビジネスエンジニア」や「自走型人材」がある。これらの共通点は、“考える力”と“手を動かす力”の両方を備えることである。
AI、SaaS、ローコードといった時代背景において、このスキルセットは特に価値が高い。
一人Scrumが武器になる理由
チームでアジャイル開発するのがScrumなら、一人でそれを回すのが一人Scrumである。
- 課題を発見する
- 仮説を立てる
- 実装する
- 改善する
このループを他人の許可なしに回せることが、柔軟性とスピードの源になる。
Scrum.orgのKen Schwaberは、「Scrumは変化に対応するためのフレームワークである」と定義している。変化に即応できる人材=一人Scrumを回せる人とも言える。
まとめ
企画するだけでは動かない。考えて、動けて、試せて、直せる人が価値を持つ。
コンサルティングとは、問題を発見し、実行可能な形で届けることにある。
その実行可能性を担保するには、技術と実装の力が欠かせない。
「考えるだけの人」と「手を動かすだけの人」のどちらにもならない。
“考えて動ける”人こそ、これからの現場で本当に求められる存在である。