学校で何を学んできたかよりも、いま何ができるかが問われる時代。そう言われ続けてきたが、実際には「最初から何かできる人」でなければ参画できないプロジェクトが多すぎる。その裏で、学ぶ場を失った若手と、人材が“老いていく”チームが同時に増えている。
Contents
DXチームが高齢化するメカニズム
企業がDXプロジェクトに割ける予算は限られる。納期も短い。
そのなかで成果を求められる以上、アサインされるのは即戦力のプロ人材になる。
- 経験豊富なPM
- 特定業界に精通した業務アナリスト
- 特定技術スタックを即日扱える実装エンジニア
- 短納期対応に慣れたアジャイル人材
こうした人材で構成されるチームは、高効率で短期的に結果を出せる反面、人材の流動性が低くなりやすい。新規の若手育成がほぼ起こらない。
2023年の経産省「IT人材白書」によると、IT関連企業のうち「自社で若手を十分に育成できている」と回答したのは**わずか9.2%**だった。業界構造としても、育成余力がすでに失われている。
学校教育に見る「育成計画」の不在
文部科学省の統計によると、日本の情報系大学卒業生のうちITエンジニアとして就職する割合は約40%未満にとどまる。
教員不足、カリキュラムの時代遅れ、企業との連携不足が主因として挙げられている。
Googleの元人材責任者ラスロ・ボックは著書『Work Rules!』の中で、「学校教育と現場で必要な能力はほとんど一致しない」と述べた。
必要なのは、ゼロから実務に入り、実践的な判断ができる人材であると指摘する。
だが現実には、学校でも企業でもその“最初の一歩”が用意されていない。
経験者優遇は合理的だが、持続可能ではない
経験者ばかりを集めたチームが、短期的な成功を収めるのは当然といえる。
だが長期的には、属人化、知識の継承不足、組織の硬直化が起きる。
筋肉は鍛えれば強くなるが、代謝が止まれば衰える。
DX推進室のような組織が、数年で形骸化する例は少なくない。
原因は「変化を受け入れる土壌」がないこと。“学習する組織”としての設計が最初から欠けている。
プロジェクト成功に必要な“人材の代謝”
プロジェクトは資源で動く。人もそのひとつ。
企業が成果を求めるなら、育成など二の次になるのは自然な構造といえる。
ただし、再現性をもった持続的なチーム運営には人材の新陳代謝=成長し、入れ替わるサイクルが必要になる。
- 若手を1〜2名、リスク込みでアサイン
- ベテランが高効率でカバーしつつ、オンボーディングを設計
- ルーティンや共通処理に自動化・標準化を導入
- 教える時間のロスを、チーム資産の強化に変換
成長する余地のある人材を受け入れつつ、全体のアウトプットを落とさない運用が可能になる。
現実解としての「少数精鋭+育成構造」
Googleの研究機関「Project Aristotle」では、心理的安全性が高いチームが高い成果を出すことが明らかになった。
これは、単に仲が良いという意味ではない。
「わからない」「失敗した」を言えることが、学習のスタート地点になるという示唆である。
少数精鋭のなかにも、そうした未経験者や若手を“意図的に配置”する設計思想が必要となる。
たとえば以下のような構成が考えられる。
- ベテラン:3名(要件定義、アーキテクト、リード実装)
- 若手・未経験:1名(設計補助、デグレチェック、ノーコード実装)
- 中堅:1名(教育担当+調整役)
これは「教育するチーム」ではなく、「代謝するチーム」といえる。
まとめ
DXプロジェクトは変化が前提の取り組みであり、変化に耐えるチーム構造が必要となる。
即戦力だけで構成されたチームは、硬くて強いが、壊れやすい。
一方で、人材の新陳代謝が設計されたチームは、柔らかくて、しなやかに持続する。
学校教育や企業内育成の失敗はすでに既定の事実。
その上で、プロジェクト単位で意図的に“代謝構造”を組み込むことが、現実的な育成戦略となる。
“人材の再生力”を信じて動くチームこそ、DXのなかで生き残り、次を作るチームになる。