「働き方をデータドリブンにする」と聞いて、多くの人が思い浮かべるのは分析やグラフ、ダッシュボードかもしれない。だがデータを“使って考える”だけでは不十分で、真のデータドリブンは“データを土台にした仕組みづくり”まで踏み込む必要がある。
業務の中に、最初からデータを軸に設計されたアプリやプロセスを組み込む。それが「Model-driven App(モデル駆動型アプリ)」というアプローチだ。
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なぜデータドリブンな業務アプリ設計が必要になったのか?
背景には3つの変化がある。
1. 業務が「人」依存から脱却しきれていない
属人化した処理、担当者によって異なる判断、手作業による転記。多くの企業で、デジタル化が進んだはずの現場に“人の経験”に頼った処理が根強く残っている。
こうした状態では、業務改善のスピードも品質も安定しない。意思決定の裏にある判断基準が可視化されないため、学習も再現も難しくなる。
2. 「分析だけ」では業務は変わらない
BIツールでグラフを見るだけでは、現場のフローは変わらない。分析結果を「見て終わり」にしてしまうと、せっかくのデータも次に活かされない。
つまり“分析”と“業務実行”が切り離されていることが、非効率の温床になる。
3. データの蓄積と自動処理が“前提”の時代になった
SaaSの普及、IoTやクラウドの進展により、あらゆる業務においてデータはすでに「最初からあるもの」になった。後から収集するものではなく、前提として業務の中心に置くべき存在になっている。
このような状況下で、業務アプリ自体も“データを前提にして動く”設計にシフトすることが不可欠になっている。
Model-driven Appとは何か?フォームの集まりではない“データ起点”の業務設計
Model-driven Appとは、Microsoft Power Platformで提供される業務アプリ設計のアプローチ。アプリの構成(画面、操作、制御など)を、事前定義されたデータモデルから自動生成する。
特徴は以下の通り。
- データ構造(テーブル、関係、属性)をもとにアプリ全体を構築
- ノーコード/ローコード開発に最適化
- セキュリティや操作権限もモデルで制御可能
- 業務プロセスを“構造化されたデータ”として定義できる
ここで重要なのは、アプリが“人の動き”ではなく“データの流れ”を基準に作られているという点。つまり、最初から「データドリブン設計」になっている。
データドリブンな業務設計とは何か?
業務が動くための“条件”や“変化”がすべてデータとして定義されている状態。この状態では、誰がどの作業をするか、どの情報を表示するか、次に何をすべきかが、すべてデータの状態によって決まる。
たとえば:
- ステータスが「承認待ち」なら上長に通知が飛ぶ
- 顧客ランクが「A」なら優先対応フラグを立てる
- 契約日から自動で更新通知を30日前に送る
これらはすべて、人が判断するのではなく、“データの状態”がトリガーになる。これがデータドリブンな業務設計の基本形になる。
Model-driven Appがなぜ有効か?3つの理由
1. 業務プロセスを「データ項目」で管理できる
営業フェーズ、対応ステータス、処理期日といった業務上の流れを、すべてエンティティ(テーブル)と属性(カラム)で定義。業務が「見える化」され、変更もしやすい。
2. 処理の自動化が容易
Power Automateと連携すれば、データの変化に応じて通知、承認、処理を自動化。人が「気づく」「判断する」「動く」という負荷を減らす。
3. リアルタイムで業績把握が可能
Power BIと連携し、データに基づいた業務状況を可視化。進捗、件数、対応速度などが定量で測れる。
ビジネス現場での適用例:問い合わせ管理の進化
現状の課題
問い合わせはメールベースで、管理もExcel。対応漏れが発生し、履歴の追跡も困難。
Model-driven App導入後の変化
- 問い合わせ情報をエンティティとして構造化
- 担当割当や進捗ステータスを自動で管理
- 過去の問い合わせ履歴も一元管理
- 類似ケースからFAQを自動生成する基盤に進化
単にシステム化するのではなく、問い合わせという業務自体が“データとして設計され直される”というのが本質的な変化になる。
データドリブン業務設計の導入ステップ
- 現場業務を「データ項目」として棚卸しする
- ステータスや数値の変化を基準にプロセス制御する
- アプリ設計はフォーム単位ではなくデータ構造から始める
- 人の判断や手作業を“仕組み化”して内包する
言い換えれば、「この人が気づいて動く」仕組みではなく、「この条件になったら勝手に動く」仕組みに変えることがゴールとなる。
まとめ
データドリブンな働き方とは、意思決定だけでなく業務そのものをデータで動かすことを意味する。Model-driven Appのようなデータ構造起点の業務アプリ設計は、その実現手段として極めて効果的である。
人の経験や感覚に依存した業務から脱却し、変化に強く、再現性があり、拡張可能な業務設計へ。データドリブンという言葉の意味は、単なる分析のその先にある。業務全体を“設計し直す”視点を持つことが、働き方改革の次の一手になる。