クライアント企業の多様化に対応するため、ITコンサル会社は「誰に何をどう提供するか」を軸に、インダストリー(業界)軸・ソリューション(技術)軸・ドメイン(業務機能)軸という複数の切り口で事業と組織を構成している。これらの違いと役割、キャリア構築上の注意点について整理する。
Contents
インダストリー軸:業界特化による信頼構築
なぜこの構造を採るのか
インダストリー軸は、製造、金融、医療、公共などの業界別に顧客を分類し、チームやサービスを構成する方式。コンサルファームが顧客企業の業界構造・慣習・規制・競争環境を理解する必要性から生まれた構造である。
メリット
- クライアントと同じ目線で課題に向き合える
- 課題設定力が高まり、戦略や上流工程での存在感が増す
- 案件獲得時に「この業界に強いファーム」としてブランディングできる
デメリット
- 同一業界に閉じると、思考や手法が内向きになりやすい
- 未経験業界に横展開しづらい
- 組織間の人材流動性が低くなる
例:アクセンチュアでは「Resources(資源・エネルギー)」「Health(医療)」「Public Service(官公庁)」などに分かれたIndustry Groupを軸にコンサルタントを配置している。
ソリューション軸:技術専門性で課題を解く
なぜこの構造を採るのか
ソリューション軸は、Salesforce、SAP、AWS、データ分析、AIなどの技術・製品別に部隊を組成する方式。特定技術を起点に提案・設計・実行まで一気通貫で支援できるように設計されている。
メリット
- ソリューション導入が目的の案件に最適化されている
- 最新テクノロジーや製品ごとに専門性を持てる
- 若手のスキル育成とナレッジ蓄積に向いている
デメリット
- 顧客の事業課題への理解が薄くなりがち
- IT導入が手段ではなく目的化するリスク
- 戦略案件には入りにくい場合がある
例:PwCではSalesforce導入専門部隊を持ち、ソリューション別の人材育成体系を整備している。
ドメイン軸:業務プロセスに特化した横断支援
なぜこの構造を採るのか
ドメイン軸は、購買、会計、物流、SCM、人事などの業務機能に特化した体制を意味する。クライアントの業務効率化・BPR(業務改革)・制度対応などに対して、プロセス設計とIT導入を組み合わせて支援する。
メリット
- 業務の深い構造理解に基づく提案が可能
- インダストリーを問わず再利用可能な業務知見を蓄積できる
- 現場での受容性が高く、成果に直結しやすい
デメリット
- ドメインスキルは業界の前提知識が欠けていると機能しにくい
- 属人化しやすく、育成が難しい
- 業界や経営層との距離が生まれることがある
例:業務系ファーム(シグマクシス、ベイカレントなど)では、業務改善や制度対応に軸足を置いたドメイン型の体制を採ることが多い。
ドメイン型コンサルタントのキャリア形成における注意点
「業務に詳しい人」止まりにならないために
- 業務の“目的”に意識を置く:オペレーションの改善が、どのような経営目標やKPIと接続しているかを把握する必要がある
- 業界前提への理解が不可欠:同じ購買業務でも製薬と自動車では前提条件が全く違うため、業界知識のないままでは適応できない
- 技術トレンドに遅れない:プロセス改善がデジタル前提で行われる現在、ITスキルも持ち合わせることが求められる
業界知識を補完し、差別化する方法
① 元事業会社出身者との連携
Big4などでは元メーカー・金融・インフラ出身のプロフェッショナルを積極採用し、業界知識の「外部注入」を行っている。
② インダストリーとのクロスアサイン
インダストリー部門とプロジェクトを共有し、業界ブリーフィングやクライアントとの共創を通じてリアルな業界理解を獲得する。
③ 情報源の習慣化
- 日経クロステック、LSEG、Bloombergなどで業界ごとの構造や動向を継続的に収集
- 製品カタログ、有価証券報告書、業界展示会資料などを使って「当事者の目線」に寄る
まとめ
ITコンサルティングの組織は、業界(インダストリー)・技術(ソリューション)・業務(ドメイン)という三つの視点を柔軟に組み合わせながら構築されている。
特にドメイン軸でキャリアを築く場合、業界やテクノロジーへの視野が狭くなりがちであり、これをいかに補完するかが差別化の鍵となる。業界知識は待っていても得られない。プロジェクト経験、情報収集、社内外との連携を通じて少しずつ「肉付け」していくほかない。
コンサルティングの価値は、単なる知識やテンプレートではなく、複雑な現場における“翻訳”と“構造化”にある。どの軸であれ、その力を育てていくことがキャリアの本質になる。